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「鉄は熱いうちに打て」と「今からでも遅くない」脳卒中リハビリテーション

副院長(リハビリテーション科)
吉川 正三 医師

回復期リハビリテーション病棟(回復期リハビリ病棟)には、医師は専従医として勤務し、専従医の約1/3はリハビリテーション科専門医(リハビリ専門医)であります。当方は、三十五歳で医師になり、脳神経外科医として十九年間勤務し、その後、リハビリ医として従事し、十年になります。その間、脳神経外科専門医、リハビリ専門医の資格を取得しました。

回復期リハビリ病棟では、脳卒中、頭部外傷、骨折等の患者さんが復職、社会復帰、在宅復帰を目指して入院し、毎日、集中的にリハビリをされています。回復期リハビリ病棟の入院患者さんの約九〇%は、脳卒中の方々です。脳卒中とは、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血等を総称したものです。脳卒中を来すと、言語障害や右または左の手足・体幹の麻痺、時には両手足の麻痺を来す事があります。急性期病院では手術、薬物療法、急性期リハビリ等の治療が行われます。急性期リハビリは、全身状態が安定すれば、可及的早期に実施し、四肢体幹の廃用性萎縮を防ぐことが重要です(鉄は熱いうちに打て)。更なるリハビリが必要な場合、回復期リハビリ病棟でリハビリを継続する事になります。以前は、脳・脊髄の中枢神経系は損傷されると再生しないと云われて来ました。しかし、脳には冗長性、可塑性、ネットワーク再構築の能力を有する事が解明されつつあります。

脳卒中リハビリの大きな関心事の一つは運動麻痺の回復と考えられます。最近、脳卒中発症後の運動麻痺回復に対するステージ理論:

1stage:皮質脊髄路の興奮性を高める時期:(発症から急速に減衰し、三ヵ月までには消失)(鉄は熱いうちに打て)

2stage:皮質間の新しいネットワークの興奮性を高める時期(発症から出現し三ヵ月でピークに達し、六ヵ月までには消失)

3stage:リハビリにより惹起されるシナプス伝達の効率化を図る時期(発症から緩徐に増加し、六ヵ月以降も持続して徐々に強化される)(今からでも遅くはない) が提唱されています。

回復期リハビリテーション病棟は1stage(鉄は熱いうちに打て)、2stage、3stage前半(今からでも遅くはない)を担当する事になります。

脳卒中リハビリテーションは、脳生理学の知見、特に脳の可塑性を積極的に利用するリハビリテーションが行われる事が多く、特にニューロリハビリテーション(神経リハビリテーション)と呼ばれることがあります。ニューロリハビリテーションには、CI療法、鏡を利用した療法、懸架式のトレッドミルを利用した歩行練習、経頭蓋磁気刺激(TMS)、経頭蓋直流電気刺激(tDCS)、随意運動介助型電気刺激療法等があります。

しかし、この様な特殊な練習のみでなく、日常生活の基本動作:移乗、座位保持、歩行、食事、排泄、入浴、整容・更衣等が、脳の可塑性に影響する事が十分考えられます。回復期リハビリ病棟では、個別リハビリのほかにも、午前、午後の二回、食堂広場(十分な広さがあります)で、集団で起立・着座練習を行っております。当方も、起立・着座練習に毎日、参加しております。薄皮をはぐ様に、緩徐ながらも確実に患者さんの状態が改善していくのを患者さん御自身、御家族並びに当方、強く実感しております。歩行獲得への第一歩は、座位・立位保持です。

当院リハビリテーション科では、患者さんの全身状態、神経症状を把握し、頭部MRI・MRA検査を可能な限り実施しております。図1は、tractography (神経経路描出検査)と呼ばれ、当方の手足等を動かす神経線維(錐体路)表示したものです。図2は、当方の機能MRIで右手の開閉運動をしている時、左の感覚運動野が賦活され脳血流の増加を示しております。

通常の頭部MRI、MRA検査は、脳構造画像であり、tractography、機能MRIは、脳機能画像と呼ばれています。回復期リハビリ病棟の患者さんには、可能な限り脳構造画像検査・脳機能画像検査を実施させて頂き、リハビリ実施に役立てております。写真3は、起立・着座練習の風景です。

当院のリハビリテーション科スタッフは、鉄は熱いうちに打て、今からでも遅くない、をモットーに、患者さんの復職、社会復帰、在宅復帰等のお役に立てればと願っております。

  

(からだとくらし2016年10月号)